クライアント・クリエイター必見『著作権』『著作者人格権』について

イラストレーターのいづ(@izusan_14)です。

イラストのお仕事していく中で大きな存在である『著作権』と『著作者人格権』。
この権利の名前は誰しもが一度は見聞きしたことがあるほど有名な権利だと思います。

そんな二つの権利ですが、一歩間違えると裁判沙汰になってしまうほどクリエイターやクライアントにとって重要な権利です。

今回はそんな『著作権』と『著作者人格権』というのはどういった権利なのかをお伝えしていきたいと思います。
初めて依頼される方や、クリエイターとしてこれから活躍していく方々の参考になれば嬉しいです。

もくじ

著作権とは?

著作権は著作物を保護するための権利です。

著作物とは、思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいいます。

日本弁理士会 『著作権とは』より https://www.jpaa.or.jp/intellectual-property/copyright/

著作権には制作された著作物の使用を独占することができる権利です。

例えばクリエイターがオリジナルのイラストを制作したとすると、そのイラストの制作者であるクリエイターは著作権を所有しているのでイラストを使って商品化をしたり、SNSに掲載したり…といったように自由に使うことができます。

逆に著作権を所有していない他の人がクリエイターの制作したイラストを勝手に利用しようとした際には、相手に使用を禁止させることができます。

著作権はいつ発生するのか?

では著作権は制作しているどのタイミングで発生するのか?

著作権はクリエイターがオリジナルのイラスト等を制作した瞬間に、クリエイター(著作者)に帰属するものとなっています。

ここで注意すべきポイントは、クライアントがクリエイターに制作依頼をするときに、特に契約を交わさずに発注をしてしまった場合です。

特に契約書を交わさずに制作してもらったイラストの著作権はどうなるのか?

この場合制作を依頼したクライアントではなく、制作をしたクリエイターに著作権が帰属します。

クライアント側がどのように制作された成果物を取り扱うかによっては契約・著作権の譲渡が必要となってくると思いますので制作後に両者間でトラブルが起こらないようにするためにも、クライアント側はクリエイターに発注をかける前に、契約や著作権についての相談をすることをおすすめします。

著作権に含まれる支分権の種類

そんな重要な著作権ですが、著作権には支分権と呼ばれる複数の権利が含まれています。

大きく分けると『著作権(財産権)』と『著作者人格権』の二つがあります。

著作権(財産権)

著作権(財産権)の中にはさらにいくつもの支分権があります。

  • 複製権(紙媒体の書籍等を販売するのに必要)
  • 上演権及び演奏権(演劇の上演や音楽を演奏するのに必要)
  • 上映権(映画を上映するのに必要)
  • 公衆送信権(電子書籍を販売するのに必要)
  • 口述権(小説や詩の朗読・講演や講義をするのに必要)
  • 展示権(美術館等で展示をするのに必要)
  • 頒布権(映像の著作物のみに帰属する権利でDVDレンタル販売等をするのに必要)
  • 貸与権(映画以外の著作物のレンタル販売等をするのに必要)
  • 翻訳権(小説などの著作物をドラマ化・漫画化・アニメ化などにするのに必要)

このようにたくさんの支分権が著作権には含まれています。

例えばクライアントが書籍に掲載するイラストをクリエイターに依頼する際、発注をする前にあらかじめ使用許可を得なければなりません。

その使用許可を得るにはクリエイター側と『著作権利用許諾契約』を締結する必要があります。

著作権利用許諾契約とは?

著作物利用許諾契約とは、一定の条件で著作物を相手方(ライセンシー)に利用させることを許諾する契約です。

外部委託によって作成された成果物の著作権を作成者に留保したい場合や、既存の著作物を利用したい場合には、著作物の利用許諾契約(ライセンス契約)を締結するのが一般的です。

知財FAQ 『著作権譲渡契約と著作物利用許諾契約(ライセンス契約)の特徴を比較。その条件・効果の違いについて』より https://chizai-faq.com/2__copyright/4504

また『著作権利用許諾契約』の締結後に、締結する前には使用予定がなかった媒体での使用を追加しなければならなくなった場合、使用する媒体が増えるたびに使用許可をクリエイターに求めなければならなくなります。

さらに追加で使用する際には『2次使用料』が発生し、クリエイターへ使用料金を支払わなければなりません。

ですので様々なメディアへ情報や作品を発信していくような企業の場合は、クリエイターと相談し著作権を譲渡してもらうことも検討することをおすすめします。

著作者人格権

では次に著作者人格権についてです。
著作権はかなり聞きなじみのあるワードだったと思いますが、著作権と名称が似ている著作者人格権とはどういった内容なのかというと

著作者人格権は、著作者だけが持っている権利で、譲渡したり、相続したりすることはできません(一身専属性)。この権利は著作者の死亡によって原則的には消滅しますが、著作者の死後も一定の範囲で守られることになっています。

CRIC 公益社団法人著作権情報センター 『著作者にはどんな権利がある?』より https://www.cric.or.jp/qa/hajime/hajime2.html

このように著作権は著作者との合意の下であれば譲渡可能ですが、著作権とは違い著作者だけが持っている特別な権利で、譲渡・相続をすることができない権利となっています。

また著作者人格権には以下の支分権があります。

  • 公表権(未公表の著作物を公衆に提供・提示できる権利)
  • 氏名表示権(著作物が公衆に提供・提示される際に著作者名の表示・非表示を決定する権利)
  • 同一性保持権(著作物の題名や内容、その他一切を無断で改変されない権利)
  • 名誉声望保持権(著作物が著作者の名誉を害するような方法での使用を禁止する権利)

上記4つの権利の内容を見ていただくとクリエイターにとってかなり重要な権利だということが分かると思います。

この『著作権』と『著作者人格権』2つの権利をクライアント側とクリエイター側が今後どう扱っていくかをお互いに相談し合い、各種契約の締結に至るわけですが、契約を締結するときにいくつか注意すべき点があります。

その注意点を次の項目でお伝えしていきます。

秘密保持契約や業務委託契約を締結するときの注意点

フリーランスのクリエイターや、企業ではなく個人でご依頼されるクライアントは『秘密保持契約』や『業務委託契約』などの契約を締結することが多いと思います。

私も上記2つの契約を締結してお仕事をしてきています。

契約内容の交渉したときに雰囲気が悪くなって、そのまま発注をしてしまったためクリエイターへ修正指示が出しづらい…

クライアントが提示した契約内容が厳しすぎる…
でもお仕事はしたいからどうしたらいいのか分からない!

このような不安や不満がある状態で契約をしてしまった場合、あとになって仕事に支障が出てしまったり、自分自身のためにならない仕事を淡々としなければならなくなってしまう可能性があります。

そんなリスクを負わないためにも各種契約の内容をより深く理解し、自身の望む契約内容を提案・協議を相手とするようにしましょう。

著作権の譲渡について

著作権の譲渡については著作権に含まれる支分権の種類 の項目で少し記述していますが、著作権(財産権)は著作者から他人へ譲渡することができます。

また著作権(財産権)は支分権ごとに分割しての譲渡期間を限定した譲渡などが可能です。

クライアント側の注意点

もしクライアント側の都合上で著作権に含まれる支分権すべてを譲ってもらいたい場合、クライアント側が注意しなければならない点としては、契約内容に『全ての著作権を譲渡すると記載するだけでは不十分です。

著作権法では著作者の保護規定があり、著作権を譲渡すると契約しただけでは『二次的著作物の創作権(第27条)』『二次的著作物の利用権(第28条)』が著作者(クリエイター)に帰属した状態と考えられるためです。

もしも納品された成果物と似たイラストが、クリエイターによって制作・販売・発表をされた場合『契約書には二次的著作物の創作権や利用権についての記載がなかったから問題ないと判断した』と言われてしまっても文句が言えなくなってしまいます。

なので契約内容をクリエイターへ提示する際には『全ての著作権(著作権法第27条及び第28条の権利を含む)を譲渡する』といったような内容での記載をすることが必要となります。

またクリエイターに著作権の譲渡を提案する際に、著作権譲渡料金がどのくらいの金額になるのか併せて聞いておくと良いと思います。
クリエイターによって成果物に対しての著作権譲渡料金は変わってくるので、『いざ見積もりを確認したら予算をかなりオーバーしてしまっていて言い出しづらい…』といった状況にならないためにも事前に気になることは確認することをおすすめします。

クリエイター側の注意点

クリエイターは『制作した著作物の使用料金』を貰って生活をしているといっても過言ではありません。

しかし著作権を譲渡するとなると、クライアント側に著作権が帰属することになるので、使用されるたびに貰っていた使用料金を今後貰うことができなくなります。
したがってクリエイターの収入が減り、生活水準が下がっていってしまいます。

ではクリエイターは提示された契約内容に対して、どういった条件をクライアントに提案するべきなのかというと下記の2つです。

  • クライアントの依頼内容に該当する支分権のみ譲渡する
  • クライアントが使用しやすいように『契約期間中の運営や宣伝等の目的での成果物の使用及び加工を許可する』といった条件を提案する

1つ目については、例えば依頼内容が『書籍の挿絵を数パターン制作してほしい』といった内容だった場合、その書籍が紙媒体だけでなく電子書籍としても販売するものだったとした際には『複製権と公衆送信権のみ譲渡し、その他の著作権に含まれる支分権は著作者へ帰属する』といった条件をクライアントへ提案すると良いと思います。

2つ目については、クライアント側の依頼内容によっては成果物のトリミング(サイズ変更)が必要になってきたり、様々なメディアへの掲載をしなければならない場合があります。
ちょっとした加工をしたいだけなのにクリエイターへ許可を取らなければならないとなると、クライアント側がかなり不便になってしまいますので契約期間中の運営や宣伝等の目的での成果物の使用及び加工を許可する と範囲を定めたうえでの使用及び加工許諾の条件を提案するとクライアント側も損をせず使用しやすい条件なので、納得してもらいやすくなります。

クライアント側が著作権の譲渡を希望する理由は
良く分からないからとりあえず譲渡してもらっておこう…
譲ってもらっておいたら使い勝手がいいから
といった理由が案外多いです。

著作権の譲渡を希望する依頼が来た際には、なぜ譲渡を希望するのか理由を聞いてみるといいと思います。

ちなみに私は基本的に著作権の譲渡は行っていませんが、ご依頼いただいた際にクリエイター側の注意点の項目で書いているような条件を提案しています。

『著作者人格権を行使しない』とは?

著作権(財産権)は他人へ譲渡することができますが、一方で著作者人格権は譲渡ができない権利となっています。
では『著作者人格権を譲渡してもらう方法はないのか?』と考える方もいると思います。

結論から言うと、あるにはあります。
その方法は『著作者人格権を行使しない』といった条件を契約内容へ含めることです。

ただイラストレーターの私からすると、とんでもなくクリエイター側が不利な条件だと思っています。
その理由はクリエイターは成果物を制作したという実績を公開することができないからです。

著作者人格権には『著作者人格権』の項目にも書いた4つの支分権があります。

  • 公表権(未公表の著作物を公衆に提供・提示できる権利)
  • 氏名表示権(著作物が公衆に提供・提示される際に著作者名の表示・非表示を決定する権利)
  • 同一性保持権(著作物の題名や内容、その他一切を無断で改変されない権利)
  • 名誉声望保持権(著作物が著作者の名誉を害するような方法での使用を禁止する権利)

例えば『著作者人格権を行使しない』ことを条件とした秘密保持契約を締結した場合、クリエイターはどうなるのかというと

『著作者人格権を行使しない』を承諾すると…

  • 『自分が制作した』とSNSでの実績公開・webサイトへの実績公開などが全て禁止
  • 成果物のクレジット表記が明らかに自身の名前ではないものへ改変されていても文句が言えない
  • 納品したイラストのデータが明らかに改造されていても文句が言えない
  • 成果物がアダルト ・ギャンブル ・ 消費者金融 ・ 新興宗教系で使用され、名誉を害したとしても文句が言えない

はっきりいって恐ろしすぎますよね。
どんなに信頼しているクライアントだったとしても疑いの目で見てしまいます。

著作者人格権を行使しない』 ことに承諾をしてしまうと、こういったことをされても一切文句が言えなくなってしまうんです。

さらに秘密保持契約で『制作者は制作に関わる技術や成果物の宣伝を口頭・ソーシャルネットワークサービス(以下、SNSという)などを含む一切の方法で公表することを禁止する』などに近い内容が書かれていた場合、実績公開どころか友達や家族にすら教えることができなくなってしまいます(ここまでのことが書かれた契約書はあるかどうか分かりませんが…)。

またフリーランスのクリエイターは実績公開ができない制作依頼となると、他のクライアントへ実績のアピールをしたくても制作に関わったこと自体の公言を禁止されている場合、具体的なアピールができず新規案件の獲得が難しくなる一方です。

ですので、私は著作者人格権の不行使をお願いする契約内容を提示された際にはクライアント側も私も損をしないような折衷案を提案しますし、そもそも実績公開不可な案件をお断りするようにしています。

ただ著作権の譲渡や著作者人格権の重要さは理解できても、どうしてもクリエイター側とクライアント側での意見の相違が原因で揉め事になってしまうこともあると思います。
下記のサイトでは、とても分かりやすい例え方で詳しく権利について書かれていたので参考までにどうぞ。

参考サイト

Blog イラストレーターズ通信 著作権譲渡にNO!

著作権譲渡や著作者人格権についての内容が詳しく書かれています。

もちろんですがクライアント側全員が悪意があって、著作者人格権の不行使をお願いしているわけではありません。
ただ著作者人格権すべてと一括りにせず

  • 成果物のトリミングをする必要が今後出てくるため同一性保持権の行使はしないでほしい
  • 実績公開や宣伝の目的での氏名表示権の行使はしても問題ないが、著作者名の表示ができない指定の媒体については氏名表示権を行使しないでほしい

といったように、時と場合によっての条件を両者で提案し合い、決定していくこともできます。

とりあえず著作者人格権の不行使をお願いする』ではなく、クライアント側も『著作者人格権の不行使によってクリエイター側にどんなデメリットがあるのか』を知ったうえで契約内容を検討し、提示してほしいと私は願っています。

どうやって条件を提案したらいいのか?

クライアントへ契約の条件交渉してお仕事の依頼や相談自体が白紙になったらどうしよう…

クリエイターに契約内容を提示してすぐに依頼を断られたらどうしよう…

このように漠然と依頼や相談に対して不安な気持ちになることがあると思います。

契約をするのに恐らくクライアント側もクリエイター側にも譲れない条件はあります。
その条件が譲れない明確な理由があるのであれば、まずその理由を相手へ伝えることが大切だと思います。

相手が納得できる理由で、著作権の譲渡や著作者人格権についての条件の提案をすれば、大体その提示した条件での契約を承諾してもらえます。

ただ対等な契約になるように条件を提案してもクリエイターに依頼を断られたり、権利について譲渡できない明確な理由を伝えても仕事の依頼が白紙になってしまうこともあると思います。
このときばかりは『この人や企業とは縁がなかった』と割り切って別のクリエイターやお仕事を探すしかありません。

そもそも秘密保持契約や業務委託契約などの契約書というのは、クライアント側とクリエイター側の両者を守るものであり、お互いに気持ちよく仕事をするための大切なものでもあります。

どちらかが一方的に不利になりえる契約は本来あってはならないことですので、お互いが納得のできる内容の契約を締結すべきだと私は思っています。

最後に

クライアントやクリエイターによって仕事をする上での譲れない条件というのは本当に様々です。

あのクリエイターは権利を譲渡してくれたのに!
別のクライアントはこの条件で依頼してくれた!

といったように別の人と比べて自分の意見を一方的に通そうとするような方も世の中には存在します。

社会のデジタル化が進んでいく現代で、クリエイターとクライアントの双方が気持ちよく仕事をしていけるように著作権や著作者人格権について個人法人・学生会社員問わず理解を深めていくことが大切になってくると私は思っています。

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